【bbの温熱環境について】

http://d.hatena.ne.jp/maestudio2009/20090425/1240666732


前先生が、サーモカメラでの測定と実際の体感から、「比較的温度ムラの小さい空間のため、身体への負担感が小さく居心地がよいように感じます。」とコメントしてくださっています。実際、訪れてくれた多くの方にも一言めに「あったかい」と言われました。設計した僕ら自身にとっても、断熱の威力を体感する良い機会となりました。

温熱環境については以下のようなことを考え、実践しています。


■寒冷地における断熱工法と宙に浮いた洞窟的な空間:充填断熱+補助外断熱+通気層

外壁の壁構成は、室内側から、シナ合板5.5t+下地/PS60t+防湿気密シート+ラワン合板3t+柱/グラスウール24K105t+構造用合板(モイス)+高密度グラスウール64K18t+下地/通気層15t+外装材、となっています。

・寒冷地(2地域と3地域の間)において、次世代省エネ基準をクリアしようとすると断熱材は厚くなっていく。
・内部空間の見え方として、構造体が見えない床壁天井全て同じ素材の洞窟的な空間にしようと思った。(床と屋根は格子梁の合板両面張りなので、そもそもフレームは見えない。)

以上のことから、構造空間を断熱スペースとして有効利用することを決め、グラスウール充填断熱の問題点として挙げられる壁体内結露を、気密シートの丁寧な施工と補助外断熱により防ぐ。万が一壁体内に湿気が入ったとしても、透湿抵抗の低い構造用合板(モイス)を用いており、その外側に通気層をもうけているため、その湿気を外に出すことができる仕組みにする。


■開口部の断熱と浮いた豆腐のようなロの字の箱:穿たれた穴と高断熱ガラス

開口部の開け方に関しては、計画当初から二転三転しました。難波先生は自身のブログ(http://www.kai-workshop.com/)で、bbは「自閉的な住宅」であると批評しており、この批評はこの開口の開け方によるところが大きいと思います。僕らは「都市に対して閉じよう」と考えたことはなく、中庭側に大きく開いて、浮かすことで、「クランクした都市とのつながり方・開き方」をしようとしました。これに関しては別のところで詳細に書きます。

最終的には、一面全て開口というような面はなく、大小さまざまな窓を床・壁・天井にボコボコと穿つ計画になりました。この開口の開け方が「豆腐のような箱が浮いている」という外観の印象と洞窟的な内観の印象を生んでいます。また、窓越しに空中中庭を通して、向こうの窓の中の様子を見る、という不思議な状況をつくりだしています。
開口部は熱的にはもっとも弱点となる場所であり、壁をいくら断熱しても、開口部を断熱しないと元も子もないといえます。前先生のサーモカメラによる撮影からも壁面と比べて温度が3℃以上低いことがわかりますし、細長い空間ですから窓と人の距離は必然的に近くなり、冷輻射の影響は大きくなります。壁を残しながら窓を穿たれていることで、冷輻射の影響を小さく押さえている、または、冷輻射の影響が小さい場所もつくっていると言えます。

窓サッシそのものの断熱性能も高めており、アルミ樹脂複合サッシ・アルゴン封入Low-e複層ガラス(断熱タイプ)を採用しています。普通複層ガラスと比べると若干コストは高いですが、最近では求めやすい値段になってきているのと、結果的には窓サイズが抑えられ、既成サイズを使えるところではしっかり使用したことにより、こういった高性能な窓サッシの採用が可能になりました。


■「浮いている」箱に対して・人の足が直接触れる「床」に対して:床の重点的断熱+潜熱蓄熱材床暖房+熱伝導率の高い下地材+熱伝導率の低い表面材

熱のやりとりには、対流・伝導・放射があり、人の温熱感覚は気温・湿度・気流・周壁面温度(熱放射)・代謝量・着衣量で決まると言われています。断熱されていない家で、冬にいくらエアコンで室内温度を高くしても、寒く不快に感じるのは、周壁面からの冷輻射があるからです。また、頭寒足熱とよくいいますが、ひとは足元が寒いと不快に感じる傾向にあります。

そういった考えのもと、今回の計画では床壁天井を全体的にしっかり断熱する中で、特に床を重点的に断熱しました。断熱材の厚みも壁の2倍以上となっており、さらに潜熱蓄熱材による床暖房を敷設しています。DKと和室では冬季にはダイレクトゲインを期待しています。このような蓄熱式床暖房でいつも問題になるのが、床材の熱伝導率です。床暖房の熱を効率的に床表面に伝えるためにも、ダイレクトゲインを蓄熱材に伝えるためにも、床材の熱伝導率は高い方が有利です。一方、同じ温度の金属と木を触ったときに、金属はひんやりして、木はぬくもりを感じるのは、金属は熱伝導率が高く、木は熱伝導率が低いからです。熱伝導率が高い金属を触ると、自分の手の熱が伝導してしまい奪われるからひんやり感じるのです。日本の住宅では裸足や靴下で生活する人が多く、今回のお施主様もそういう方です。そういうライフスタイルの人にとっては、いくら床暖房の効率のためには熱伝導率が高い素材がよいとしても、冬場は不快の原因となるため不向きといえます。(欧米のようにベッド以外は靴で生活する人たちにとっては、石等の熱伝導率の高い素材はあるかもしれません。)そこで今回は、床暖房の熱源直上の下地材に比較的熱伝導率の高いフレキシブルボードを用い、表面に薄く木や畳を張るといった構成にしました。シナ合板は5.5mm、畳は15mmです。住まい始めたお施主様から、裸足で生活できると好評です。熱効率に関しては、今後の実測で検証していくことになります。


以上のようなことによって、「比較的温度ムラの小さい空間のため、身体への負担感が小さく居心地がよいように感じる。」空間が実現されています。興味深いのは、これらのどれも、全ては壁の中に隠されてしまっていて、目で見てわからない、ということです。でも、感じることはできる。一方、壁の中の出来事だとはいえ、外観や内観や空間の感じ方に影響を与えています。これは「環境が建築デザインを変えるか」といったときのひとつのスタンスになりうるのではと考えています。

(川島範久)